ヒノエ生誕記念ショートSS

愛しき贈り物
ある日の早朝、目覚めると九郎の目の前にはにこやかな笑顔の神子2人。九郎を間に挟む形で仁王立ちしている2人に、九郎は何事かと目を丸くする。

「…望美、朔殿…こんな早くからどうしたんだ…?」

2人の笑顔の理由を知らない九郎はそんなごくごく普通の反応を返す。そんな九郎をじっと見つめながら、望美がそっと膝を折って褥の上に起き上がった九郎の手を掴んだ。

「九郎さん、今日何の日だか覚えてるよね?」
「今日…?あ、ああ…」

唐突に話を振り出す望美に曖昧な返事を返しつつも九郎は頷く。

今日は特別な日。それはわざわざ望美に言われずとも九郎も解っている。
だが、それと早朝から部屋へ訪ねて来る事とどう関係があるというのだろうか。

「ちょっとしっかりしてよ、九郎さんが言ったんだよ?どうすればいいか解らないって」
「だから私達、九郎殿に協力しようと思ってきたのだけれど…」

きっぱりと言い捨てる望美と、控えめに告げる朔を九郎は交互に見やる。

そう、確かに数日前に九郎は悩みを2人に打ち明けた。その時2人は言ったのだ、『私達に任せて欲しい』と。

「ああ…そうだったな、それでわざわざ来てくれたのか。済まないな」

九郎はその数日前の状況を思い浮かべつつ2人へとそう言った。
けれど、2人はそれを気にしていないという様子で話を進める。

「いいよ、それよりも時間が勿体無いからちゃっちゃっと始めよう。朔、用意は良い?」
「ええ、大丈夫よ望美」

そう言って2人は何事か確認し合うと、自室から持ってきたらしい包みをから中身を取り出した。それを朔が広げるのと同時に、望美の手が九郎の夜着をいきなり脱がしにかかった。
この行動には流石に驚き、九郎は慌てる。

「の、望美…っ、何をする…っ?」
「あ、ちょっと暴れないで九郎さん!夜着を脱がなきゃ着れないでしょ!」

訳も分からないまま夜着を脱がそうとする望美に抵抗する九郎へ、望美の檄が飛ぶ。女の細腕で九郎を抑えて夜着を脱がしていく様は圧巻としか言えない。
相手が望美だからという油断もあったのか、結局抵抗空しく九郎は夜着を脱がされてしまった。

「さ、次はこれを着てもらうからね…じっとしててよ九郎さん」
「ごめんなさい、九郎殿…これは貴方の為でもあるの」

そう言って望美と朔が九郎の前に持ち出したのは、鮮やかな色合いの着物だった。だが、どう見てもそれは男の自分が着るような物ではない。

「…お前達正気か?それは女物だろう…っ?」

目の前に出された女性用の着物に冷や汗が背を伝うのを感じながら、九郎は声を荒げる。

「うん、そうだよ。九郎さんに似合いそうなのを2人でチョイスしたんだから」
「ちょい…す?…訳の解らん事を言って誤魔化すな…っ」

耳慣れない望美の言葉に怪訝に眉を寄せ、九郎は不機嫌を露にする。が、望美はそれで引くような女ではなかった。

「はいはい、良いから大人しくしてて下さい。時間が勿体無いから!」
「あ、こら…やめろ…っ」

そう言って軽くあしらうと、朔と一緒になって手にした女性用の着物を九郎に無理矢理着せていく。どこまでも最強神子な望美である。

そうして一刻後、抵抗したのも意味を成さず九郎はしっかりと着付けられ、長い髪も女性がするような結い方で結われて、申し訳程度に化粧まで施されてしまった。

「うん、九郎さん素が良いからメイクもナチュラルで十分綺麗になってるね」
「めい、く…?なちゅ…?」

またしても聴き慣れない言葉を使われ首を傾げる九郎だが、そんな九郎を見ながら朔が望美の意見に納得するように頷いている。

「本当に綺麗よ、九郎殿…これなら全く問題はないわ」
「そんな風に言われても嬉しくないんだが…これが一体何になるというんだ?」

そもそも九郎にはこの姿になる事と相談の内容が結びつかない。これで何が問題ないと言っているのだろうか。

「今日はその姿で一日ヒノエ君とデートしてきて下さいv」
「でえと…?」

三度飛び出した聴き慣れない言葉。やはり九郎はその意味が解らず困った顔をする。

「でーとというのは、恋い慕い合う者同士が逢瀬を楽しむ事を望美の世界の言葉でそう言うのだそうよ」
「逢瀬を…楽しむ?こ、こんな姿でか…っ?」

朔の的確な説明で意味は理解したが、理解してしまえば動揺が生まれるのは当然で。
ただでさえ男である自分が女性のような姿をしているのは恥じ入る事であるというのに、それをヒノエの前で晒せと言うのだから九郎が焦るのも無理はない。

「大丈夫、きっとヒノエ君すっごく喜ぶと思うから」
「い、いや…だが…っ」

きっぱりと言う望美に九郎の動揺は益々増すばかりだ。

「もう、九郎さんがもうすぐヒノエ君の誕生日だから何かヒノエ君が喜ぶ事をしたいって言ったんでしょ?」
「確かにそう言ったが…こんな事で…」

こんな事でヒノエが喜ぶのか九郎には疑わしい。けれど神子2人はこれで大丈夫だと本気で思っているようだ。

「自分の誕生日に愛しの恋人が自分の為だけに着飾って共に過ごしてくれる…これで落ちない男はいないよ!」

そう断言する望美。最強な神子様はそう言うが早いか九郎の手を再び掴んで立ち上がらせる。

「実はもうヒノエ君を呼び出してあるんだ、何の用事かは話してないからまさにサプライズエンカウンターでヒノエ君の喜びも倍増よv」
「…さぷ…?」

ある程度のゲーマーでないと解らないようなコアな単語を持ち出しにこやかに微笑む望美に、九郎はこれ以上の抵抗は無意味と悟る。

「それじゃあ、ヒノエ君の所に行くよー」

元気よく告げる望美に手を引かれ、九郎は屋敷からあっさりと連れ出されてしまうのであった。




所変わって望美に指定された場所。そこでは既にヒノエが望美に言われたように普段着ではない、いわば身を飾る為の着物を纏い待っていた。

用件を言わない望美にその心理を探ってみたヒノエだったが、望美の方が一枚上手なのかそれは上手くいかなかった。

どちらにしろ、そのまま待てば望美の意図は解る訳であるからヒノエは深く追求しない事にして望美が来るのを待った。

(せめて早く用事を済ませて欲しいものだけど。今日はオレの誕生日だから、一緒にいればそれを口実に九郎に思う存分触れられそうだしね…)

まさか望美の用事が九郎と過ごす誕生日のお膳立てだとは知らないヒノエは、望美の到着を待ちながらそんな事を考えていた。

ヒノエが待ち始めてから半刻ほど過ぎた頃、漸く望美が姿を見せた。駆け寄ってきながらヒノエに声をかける望美に、視線をそちらへと向ける。

「ごめん、ヒノエ君…待った?」
「ああ、少しね…」

側まで来た望美がそう言うのに対しヒノエが答える。
そして早速呼び出した目的が何なのか問いかけた。

「さて、今日は何の用でオレをここに呼んだんだい?」
「ああ、それなら向こう見て貰ったら解るよ」

尋ねられた事にそう答え、望美は自分が歩いてきた方を指し示す。その先には誰かの手を引いて歩いてくる朔が見えた。
ヒノエはそちらを見やって驚いた顔をする。

「あれは…朔ちゃん、と…九郎!?」
「あったり〜♪さっすがヒノエ君、一発で見抜くなんてねv」

朔に手を引かれてこちらへと向かってくる綺麗に着飾った九郎に、僅かな動揺を隠せずヒノエが呟く。そんな、女性の着物に身を包み化粧もしている恋人を一発で見抜いたヒノエの観察眼を褒めるように望美が喜々として言う。

「今日はヒノエ君の誕生日でしょ、だから私達と九郎さん本人からの贈り物だよ♪」
「ヒノエ殿、今日は九郎殿と一日ゆっくり過ごしてくれたら私達嬉しいわ」

望美と朔がそう口々に言いながら九郎をヒノエの前へと押し出す。2人に押し出された九郎の顔は、ここに来るまでに人の目を惹いた為羞恥に染まっている。

「姫君達2人がオレの為に九郎を贈ってくれるのかい?それに九郎本人から、とも言ったよね…九郎もオレの為にそんなに可愛い格好をしてくれたのかな?」
「…う…か、可愛いと言うなっ」

まじまじとヒノエの視線に見つめられ、益々頬を朱に染めて九郎が声を荒げる。だが、そんな顔では可愛いと思うなと言う方が無理な話だ。

「九郎はそう言われるの好きじゃないからね…でも、本当に今すぐ攫ってしまいたくなるくらい可愛いんだからそのお願いは聞けないな」
「…っ、お前はすぐそういう事を言う…っ」

恥じらいなどないのだろうかというくらい景気よく出てくるヒノエの甘やかな言葉に、言葉を返せば返すだけ九郎は墓穴を掘っているかのようだ。

「じゃあ、私達は帰るから2人は思う存分イチャイチャしちゃってね♪」
「ヒノエ殿、九郎殿を宜しくv」

望美と朔はそう言うと2人の邪魔をしないようにとそそくさと帰り始める。
そんな2人の神子へとヒノエは礼を言った。その礼の声を聴き望美と朔は去りながら応援するように腕を一度、高く掲げた。

「行ってしまったね…さて、それならオレ達もこのままどこかへ行こうか?」

赤い顔で困ったように瞳を揺らしている九郎にヒノエが声をかける。そしてそっと朱を差した九郎の頬を指先で辿って。

「折角綺麗に着飾ったお前っていう素敵な贈り物を貰ったんだ、楽しまなきゃ勿体ないだろ」

そう言ってヒノエは九郎を自分の方に抱き寄せる。そしてそのまま向かう当てでもあるのか望美達の帰ったのとは反対の方向へと歩き出す。

「…これで…」
「…ん?何、九郎…?」

ヒノエが歩き出したのに合わせて足の動いた時、九郎はポツリとそう呟いた。
九郎の呟きを確認するようにヒノエが訊くと、真っ赤な顔の九郎と視線が重なった。

「これでお前は嬉しいと思ってくれているのか…?望美達は、大丈夫だと言うが…」

今一つ、本当にこれでいいのか解らずに、九郎はそんな風に尋ねる。
けれど、そんな九郎の不安を取り除くかのようにヒノエの腕が九郎を抱く力を僅かに強める。

「…嬉しいよ、とても。愛しの姫君がオレの為だけの装いで一日中側にいてくれるなんて…最高の贈り物だよ」
「…ヒノエ…」

まさに望美が言ったのと寸分違わぬ理由でヒノエはこの状況をとても喜んでいる。臆面もなくそれを口にしてしまえるヒノエに、九郎はくすぐったいような気持ちを覚えた。

「…言うのが遅くなったが…誕生日、おめでとう…」
「ふふっ…ありがとう、九郎」

照れた表情で呟くように告げた九郎に満面の笑顔でそう返すと、ヒノエは九郎の淡く紅を引いた唇に口付ける。それを九郎は抵抗もなく受け止めて。
互いの唇同士がそっと離れると、2人顔を見合わせて微笑う。

「それじゃあ折角だから出かけようか?まだまだ時間はたっぷりあるしね…」
「ああ…そうだな」

手を取り合い、晴天の下を2人は歩き出すのだった。

甘いですねー…私ヒノ九を書くと甘くなってしまうようです(笑)

またしても九郎に女装させちゃいました…望美の一存で朔ちゃんも引き入れて(笑)
最強神子様健在です。ついに本当に九郎をひん剥いちゃいました(´д`;)

去年はバタバタしててヒノエ生誕記念を書けなかったけれど、今年は書けたのでとりあえず満足です。
さぁ、次は天真の生誕記念だ(笑)その後は勝真…書きたいと言いつついまだに書けてないのでイサ勝で挑戦してみようかと、思ってます。
あ、天真のはイラストに頼天のミニSSでv近日中に上げたいと思います。


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