寝顔と独り言

風にそよぐ蜜柑色の髪に―――視界を遮る可愛らしい顔に、オレは思わず立ち止まる。
数個の柿を腕に抱えたまま屋敷を支えている柱に凭れて転寝している姫君に、目を奪われて視線を外す気もしない。

「こんな所で寝ているなんて…無防備だね、全く…」

そういう年齢には見合わない可愛い所が本当に可愛いんだけど…そう思いながら呟いた言葉が寝ている彼には届く筈もなくて。

安心しきった穏やかな寝顔に、安堵している反面でオレにはそれが少々面白くない。
それは、ここが九郎にとってのもう一つの故郷だから、なんだろうな…。
周りの環境が九郎を認めようとしない事で追い立てられるように逃れてきたこの平泉は、確かに九郎の傷ついた心を癒してる。
懐かしい人たちとの再会、流転の中にいた頃とは違う穏やかな時間…それが今の九郎にとって最良の癒しになってるんだ…。

オレにもっと力があれば…どんなものからも九郎を守れるだけの力があれば…なりふり構わずにこの手でお前を守るのに…。

「今はまだ…足りないんだ、この手でお前を守るだけの力が…」

聞かれていないと知っているからこそ言える弱音だ…こんな言い訳じみた言葉、起きてるお前の前じゃ言えないからさ…。

つん、と九郎が大事そうに抱えている柿を指先で爪弾く。大好物だという事は知っているが、寝ている時まで離そうとしないのがまた彼らしくて可愛い。

「熊野に帰ったら植えてみるかな…柿の木」

きっと鎌倉方との諍いに決着が着かない限りここを離れる事は出来ない。いつの事になるかも解らないけれど、九郎の穏やかな寝顔を見ていたらそう思わずにいられなかった。九郎が喜んでくれるならそれだけで植える価値があるからね。

「ふふっ、オレとした事が重症だ…まいったな」

こんな風にただ一人だけに夢中になってしまうなんてね…ずっと覚めそうにないよ、この恋の病は…。

だからね九郎…いつかオレはお前をこの手で守りきれるだけの男になるから、今のうちから覚悟を決めておくんだよ?
そう遠くない未来に、必ずお前をオレの虜にしてあげるからね…。

そんな決意を新たに胸に誓いながらオレは、まだ夢の中にいる九郎の柔らかな頬へと触れるだけの口付けをした―――――。

小話部屋トップバッターの小話は十六夜記平泉ルートのヒノ九でお送りしました!ヒノエ視点で書いてるので甘いわね…言葉が(笑)砂糖と練乳をかけまくったイチゴのようです(笑)別当殿は九郎の為だけに柿の木を植えるそうです、自分の屋敷に(*´д`*)
寝ている九郎に一人で色々話しかける、弱音も吐いちゃう別当殿を書きたかったらしいです、私(笑)
小話だから気楽に・・・とか思っていたのにヒノ九で書くと甘々になってしまったよ、ビバ私のヒノ九脳!(>▽<)g
次はもう少しコメディタッチなもので書きたいなぁ。CP入り乱れ気味で(笑)


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