CROSS×LORD |
日常と非日常は常に隣り合わせだ。何でもないありきたりの日々は、時として突如それまでとは全く別のものへと一変する。 例えば、コツコツと努力の日々を重ねてきた結果が将来大きな成果へとなり人の役に立つようになるかも知れない。また、日々を慎ましく生きていた者が一転して荒波に飲まれ博打のような人生を送るようになる事もあるだろう。 それは誰にでも必ずしも起こり得るというものではない。努力をしても報われない者も大きな事柄に巻き込まれる事なく平凡な一生を遂げる者も確かにいるのだ。 しかし、今ここにいる二人をこの二つの傾向のどちらかに当て嵌めるとするならば、前者の方であった。 「…九郎、じゃなかった…九郎様、起きて…」 微かに朝の光の差し込む広い部屋の中、まだベッドに潜り込んで眠っている部屋の主へとヒノエは声をかけてからカーテンを開け放つ。一瞬言い淀んだのはまだこれまでと変わってしまった呼び方に慣れていない所為だ。 「…ん…ヒノエ?…おはよう…」 「おはよう、でもまだ眠そうだね、九郎様?」 窓から入り込んでくる明かりに目を覚ました九郎がもそりとベッドに起き上がると、九郎の為の着替えを手に持ち待っているヒノエと目が合う。 緩く目を擦って挨拶すると、ヒノエからそんな言葉が挨拶と共に返ってくる。 「…大丈夫だ、起きれない程ではない」 「そう…ならこれに着替えて、今日の予定は頭に入ってるかい?」 九郎はヒノエへそう返しつつベッドから降りた。ぐっすり眠っていたからそれ程目覚めは辛いものではない。 その様子から次の行動に移っても大丈夫だと思い、ヒノエは持っていた着替えを九郎に渡しながら確認するように問い掛ける。 「ああ、今日は昼まで学校で夜には父上と会食に出かける予定だな…」 今日は平日で、大学生の九郎には普通に講義があった。昼までの講義が終われば、今日九郎にある予定といえば後は父親の仕事の得意先が集まる立食パーティーに父親と共に参加する事くらいだ。 「問題ないみたいだね、それじゃあ朝食はどうする九郎様?ここへ持ってきた方がいいかい?」 予定をきちんと把握していた九郎に相槌を返し、ヒノエは次の話題を振る。とはいっても九郎の答える内容は解っているので余り訊く意味はないのだが。 「いや、下でお前と一緒に食べる」 「…今日もかい?九郎様…解ってると思うけど、オレはもうただの従兄弟じゃないんだよ?」 九郎から返ってきたのはヒノエが予想していた通りの言葉で、それがくすぐったくもあったがヒノエは困ってしまう。 元々ヒノエと九郎は従兄弟で幼馴染みという立場にあった。それは今でも変わらない事なのだが、ある時を堺に二人の関係は大きく変わってしまっていた。 それをヒノエは自ら受け入れたが、未だに九郎は受け入れ切れていないらしい。 「だが、俺はここで一人で食べるよりお前と一緒に食べたいんだ」 「…参ったな…流石にそろそろメイド長辺りが怒り出しそうだし…」 確か昨日同じようなやり取りをした後、階下の食堂で共に朝食を食べている間中ヒノエは誰かの視線を背に感じていたのだ。きっと立場も弁えず九郎と食事をとっていた所を見られていたに違いない。 そしてそれはもう、今日もそのような事をしたならばそれについて問い詰められてもおかしくはないという程に、日常茶飯事だった。 何故問い詰められるかというと、それもその筈。九郎は今や国内でも有数の大企業の社長子息で、対するヒノエは九郎の世話役兼ボディガードという立場だ。身分が違うにも程があるというものだ。本来なら一緒に食事など、あってはならない事だといえた。 「ヒノエ、どうしても駄目か…?」 ヒノエがなかなか色いい返事を出さない為か、九郎は寂しげに瞳を伏せて呟く。そんな顔をされては、ヒノエはこれ以上無下にも出来ない。 「…仕方ないね、ここへ運ぶからここでなら構わないよ、九郎様」 「本当か…っ?」 結局折れてしまうヒノエに、九郎は伏せた筈の瞳を輝かせて確認してきた。そんな現金な九郎の態度に思わず笑いが込み上げてヒノエはクスリと笑った。 「…そんな冗談は言わないよ。ここでなら口煩いメイド長に見つかる事もないと思うしね…」 「そうか…ならばここで一緒に食べよう」 にっこりと、心から嬉しそうに九郎は笑顔を浮かべる。ヒノエが共に食べてくれる事が余程嬉しいらしい。 そんな九郎を待たせてはいけないと、ヒノエは話の合間に着替えを済ませた九郎を部屋の中央にあるチェアへと座らせた。 「…すぐに持ってくるから待っていてね」 「ああ」 以前と変わらない筈の朝。けれど何かが変わってしまっている現実。 それが気にならないという訳ではなかったが、手を伸ばせば届く存在に九郎は惜しみなく笑顔を向ける。 それを受けてヒノエは九郎の為に朝食を取りに部屋を出て行く。 この先、変わってしまった現実が齎す運命と宿命に翻弄される事になろうとは、まだ九郎は少しも気付いていない。 そしてそれが、周りの環境や二人の関係をどう変えていく事になるのかも…未だ知る由はなかった―――。 ブログの小話で書いたヒノ九のパラレルです。 ふと思い立ったボディガード×社長子息な現代モノパラレルネタ…しかも従兄弟設定生かして元々従兄弟で幼馴染という設定にしてます。 そのうち本格的に書こうと思っています。詳しい設定はまたその時に作りますが、簡単に設定をいうとこんな感じです。 九郎―大企業の社長子息。現在大学四回生で、卒業後は父親の元で働く予定。ヒノエとは従兄弟で幼馴染み。兄弟のように育ったヒノエを頼りにしているが、近頃それだけでない感情が芽生え始め少し困惑気味。 ヒノエ―父親が九郎の父親の会社の子会社を任されていたがある時倒産になり、従兄弟で幼馴染みという事もあり九郎の父親の提案で九郎の世話役とボディガードを任される事になる。密かに九郎に恋心を抱いている。 ボディガードと社長子息の身分違いな恋愛模様なんかを書いていきたいなーと思ってます。 一応今回のは二人きりなのでヒノエは普通に喋ってますが、人前だと畏まった喋り方もさせると思います。それでそんな言い方しなくていいとか言って九郎は困った顔したりするんだよ、幼馴染みなのに変な感じだとかって(笑) って言うかこれ書いてて楽しいのはもしかして私だけ? 感想下さると嬉しいです(*´д`*) |