ACT,4 将臣の場合
望美は意気揚々と街の中を練り歩き、とあるコンビニへと立ち寄った。それなりには見慣れたその看板に九郎はまたもや頭を抱えたい気持ちになった。幾ら神子命令とはいえ、本当に睨み合いが起こらないで済むとは言い切れない。

「将臣く〜ん、いる〜?」

このコンビニでバイトに勤しんでいる筈の将臣を呼ぶ望美だが、その声に反応したのは別の人物だった。

「…先輩?どうしたんですか…兄さんなら裏で検品してますけど…」

将臣と同じくこのコンビニでバイトしている譲が品出しの手を止めて答えた。しかしその視線が望美の後ろにいる九郎に向いた所でぴたりと止まる。

「えーっと…九郎さんのその姿は一体…?」

「ああ、気にしないで、ほんの出来心…じゃなくて遊び心、だから」

ついつい本音を漏らしかけて望美はすぐさま訂正したが、九郎の後ろで密かに牽制し合っているヒノエと弁慶にはばっちりと聞こえていた。しかし九郎は望美の吐いた本音は聞こえていなかったらしい、むしろ将臣にまで今の姿を見られる事にまだ抵抗心を持っている様子で唇を引き結んでムスッとしていた。

「あれっ、来てたのか望美?」

そこへ検品を終えたらしい将臣が戻ってきた。望美は嬉々として反射的に隠れようとする九郎の腕を掴む。そしておもむろに将臣の前に立たせた。視界に映る九郎の姿に将臣が思わず息を呑む。

「く…九郎、なのか?」

「似合ってるでしょ〜可愛いでしょ〜♪ほらほら、素直に白状しなさいよv」

フリルのレースの衣服を身に纏った九郎に視線が釘付けになったまま呟く将臣に、望美は肘で将臣を軽くつつきながら言う。九郎はやはり唇を引き結んだままだが、僅かに頬が赤い。恥らうその姿もまた可愛いと、望美は小さくガッツポーズを作った。

「あ〜…確かに、すげぇ可愛い…ちょっとやべぇかも」

そう言いながら将臣の顔も赤くなる。そうやって暫く向かい合ったまま頬を染め合う九郎と将臣の姿は、傍から見れば突っ込みどころ満載だ。

「…いつまでそうしてるつもりだよ、あんた」

「将臣君、調子に乗られては困りますね…」

そうしていたら案の定痺れを切らしたヒノエと弁慶が場の空気を乱した。対立するように三人が鋭い視線を交わらせる。

「イエローカード!私がさっき言った事忘れてないよね、ヒノエ君も弁慶さんも」

不穏な空気を漂わせ始めた三人に詰め寄りつつ、望美が凄みのある声音で言い捨てる。

「今度やったら…わかってるよね?それじゃ将臣君も譲君もバイト頑張ってね〜」

望美はそれだけ言うと再び九郎の手を掴んでコンビニを出て行く。その後をやはり望美には逆らうべきではないと妙に納得しつつ、ヒノエと弁慶が続く。

後に残された将臣は狐につままれたような顔で望美達の去った入り口の扉を見るのだった。
ACT,5 景時の場合
コンビニを出た足で望美が向かったのは、景時と朔が部屋を借りているアパートだった。九郎は着慣れぬ服装と街中を人々の視線を集めながら練り歩かされた疲れとですっかり大人しくなっている。

「大丈夫…九郎?疲れたんじゃないか…?」

「望美さんの気まぐれは今に始まった事じゃないですが…無理はしないで下さいね、九郎?」

静かにしている九郎を気遣ってそう声をかけるヒノエと弁慶だが、望美に聞こえないように極々小さな声で話している辺りが、望美の影響力を物語っている。九郎も望美に気付かれないように、小さな声で二人にまだ大丈夫だと答えた。

景時と朔の部屋の前まで来ると、望美は表札の側の呼び鈴を鳴らした。中から扉の方へ近づく足音が聞こえ、扉が開く。

「あら、望美…急にどうしたの?」

連絡をくれれば良かったのに、と言う朔に当たり障りのない受け答えを返して、望美は中へと上げてもらう。そして朔に簡単に事情を説明した。特に反論もなく頷く朔の様子にどうやら望美に協力してくれそうだという事が窺える。

「兄さんなら居間で洗濯物をたたんでいるわ。…兄さん、望美達が来たわよ」

さして広くはない廊下を歩き居間へ続く扉を開けつつ、朔が中にいるらしい景時へと声をかけた。

「望美ちゃん、いらっしゃーい。どうしたの、何か用事?」

いそいそとたたんでいた洗濯物を纏めてソファの上に置き、居間に入ってきた望美達を歓迎する。そして、望美の後ろにいた九郎の姿に目を瞠った。

「…く、九郎…?その格好は…?」

眼前で窓からの微かな風に揺れる淡い色合いのスカートを凝視してしまいつつ、妙にドギマギしながら景時は九郎に声をかける。

「…あまりじろじろ見るな…」

半ば諦めたような顔をしているが、それでもあまりまじまじと見られるのは納得がいかないらしい九郎は、拗ねたように小さく呟く。

「ああ…ごめんごめん…でも、その…こんな事言ったら怒るかもしれないけど…可愛い、な…なんて…」

必要以上に動揺しながら言われた言葉に『こいつもか…』と九郎は呆れた顔をする。可愛いと言ったのはこれで四人目だ。自分の何処をどう見て可愛いと言っているのかいまいち理解出来ない九郎は、深い溜息を漏らす。

「はい、終了!さ、次行くわよ、次!」

やはり先程までと同様、独断で可愛い衣装に身を包んだ九郎のお披露目を中断した望美は、朔が出してきた紅茶を口にする間をも惜しむように九郎の手を引いて帰ろうとする。

「え…?終了って…望美ちゃん!?」

「そういう事ですので…望美さんには逆らわない方が身の為ですよ?」

「じゃあな、景時」

早々に去っていく望美と九郎を見やって頭に?を浮かべる景時に、望美達の後を追うように弁慶とヒノエもそう言い捨てて去っていった。

「フフ…望美にしてやられたわね、兄さん」

まだ呆然としている様子の景時に朔が苦笑を浮かべるのだった。
ACT,6 リズヴァーンの場合
景時と朔の住むアパートを出てから望美が向かったのは、リズヴァーンの職場だった。こちらの世界に残る事になってから、リズヴァーンは町の道場で剣道の講師をしている。教え方も上手く、生徒達からも慕われているらしい。

「…ちょうど休憩中のようですねあちらにいますよ」

たまたま生徒の入れ替わりの時間だったのか庭先で休憩中のリズヴァーンを見つけて弁慶が言った。

「あ、ホント。リズ先生〜こんにちはー」

リズヴァーンの姿を確認して九郎の手を引きつつ望美はそちらへと近づいていく。

「…望美か。…九郎のその姿は…そうか、お前か…」

望美に手を引かれて姿を見せた九郎の出で立ちに、一瞬でそれが望美の気まぐれだと理解したリズヴァーンはやれやれというように短く嘆息する。

「先生はどうですか?九郎さんのこの姿、可愛いと思いませんか?」

キラキラと目を輝かせて問いかける望美に、反論した所で後々面倒なだけだと理解しているリズヴァーンは、それでも望美の気まぐれにつき合わされている九郎を気遣うように言葉を選んで答えた。

「…確かに似合うとは思うが…あまり慣れぬ格好をさせては九郎が疲れるのではないか…?」

「先生…」

リズヴァーンの言葉の前の方だけ都合よく除外して、初めて望美の行動を差しさわりのない言葉で指摘してくれた事に九郎がジーンと感動する。

「…あ、ご心配なく。もう先生でお披露目は最後ですから♪」

根本的な解決になっていない…と思う面々だったが、ここで機嫌の良さげな望美を刺激するのは得策ではない故口を噤む。

「ではやっと帰れるのかっ?」

精神的に疲れ切っていた九郎は『最後』という言葉にパッと表情を変える。もうすぐ望美の気まぐれから解放されるかもしれない期待で嬉しさを隠せない様子の九郎もやはり可愛いと、不謹慎ながら望美達は思った。

「…折角の可愛い姿をもう拝めないのは寂しいけど、良かったね九郎?」

半分本気で残念がっているのではという様子で話すヒノエに少しムッとした九郎だが、それよりもこの状況から逃れられる事の方が大きいらしい。それまで望美に連れられるままについてきた九郎は、帰りたい一心でそわそわし始めた。

「それじゃあ私達帰ります、目的は達成できましたし」

一刻も早く帰りたがっている九郎に苦笑を浮かべつつ、望美はリズヴァーンの元を後にした。
ACT,7 野望は果てしなく…
リズヴァーンの所から去った後ヒノエ・弁慶とも別れた望美と九郎は自宅へと戻っていた。しかし、九郎はまだ解放されてはいなかった。

「…あの…望美…これは…?」

望美の自室。そこで未だ続いていた望美の気まぐれに、敦盛が困ったように表情を揺らして望美と九郎と自分の手にあるものとを交互に見やる。

「…最後って…言わなかったか…お前?」

九郎も敦盛と同じく望美と敦盛と望美の持っている物を見やりつつそんな風に呟く。

「うん、言ったよ…『お披露目は最後』って」

「ではこれはなんなんだ…っ!?」

いつ何処で用意したのか、、深いスリットの入ったチャイナ風ワンピースを差し出している望美に九郎は力いっぱいに言った。敦盛の手には望美が強引に渡したらしいタイトスカートとニットのアンサンブルがある。

「良いじゃない減るもんじゃなし、もう少し付き合ってよ?」

ちょっとした気まぐれが味を占めてしまったのか、にこにこと笑顔で告げる望美に、九郎の背を空寒い空気が走る。敦盛はというと抵抗があるものの反論していいのかも分からずオロオロしている。やはり望美の機嫌を損ねるのは賢い事とは言えないらしい。

「さ、早く。敦盛さんも九郎さんも、それ着てみてv」

小悪魔のような笑顔が何とも恐ろしい。

「…これを…着る、のか…?」

「…拒否権は…ない、か…ハァ…」

結局望美には逆らえない二人は、渋々渡された衣服を着るのだった。

その後、秘密裏に九郎女装コレクションなる写真が望美の手によってかつての八葉達に高値で売られたとか、むしろ買い漁られたとか…。はたまた敦盛女装コレクションは望美だけが所持出来たとか…。

どちらにせよ、真実は神と望美のみぞ知る…。

−完−



終わりました…こ、小話のつもりだったのに…もうSS並みの長さだYo(笑)
望美の独壇場、九郎の女装…なアレな話でしたが…書いててメッチャ楽しかったです(*´д`*)
一応九郎争奪戦で参戦メンバーはご覧の通りヒノエ・弁慶・将臣・景時・リズです。
そして望美×敦盛…譲は望美に片想い続行中(´д`;)
大団円ED後の現代の設定で書いてます、のでフリルの服(笑)ピンクハウス系と思って下さいませ…(*´д`*)
でもぶっちゃけ景時にーやんは振り回されてるだけだった気が…(>_<)リズ先生は保護者的感覚で書いてましたし、ハハ…。
だから争奪戦の中心にいるのはヒノエと弁慶と将臣ですにょ。
たまにはこんなコメディな物も良いですな…いつもシリアス書いてるからね(笑)
それにしても本当にこの望美は最強神子様ですな…八葉の誰一人逆らえない人(爆)
…っていうか私も欲しいよ、九郎と敦盛の女装コレクション写真!←受けキャラの女装姿好物。
女装させられるのが嫌だけど逆らえなくて着せられちゃって恥ずかしがってたり悔しがってるのを見るのが好きです、萌えです(変態的発言!)
この話も半分はそんな萌え妄想から、残り半分は攻めの反応見たさに考えました(*´д`*)
少しでも読んでくれた方が萌えを感じてくれたら幸いですヽ(´ー`)ノ


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