理由


「ねぇ、ロイドってどうしていつも前髪上げてるの?」
 自分の少し前を歩いているロイドに、ジーニアスはふと、問いかけた。声を掛けられて歩く足を止めないままロイドは後ろを振り返る。
「おお、それ俺サマも気になってたんだよね〜」
 ジーニアスと同じくロイドの少し後ろを歩いていたゼロスも、便乗するように距離を詰めてきて背後からロイドに抱きついて尋ねてくる。一瞬だけゼロスを見やって、自分に纏わりついてくるその過剰なスキンシップに顔を顰めつつ、ロイドは視線をジーニアスの方へ向け直した。
「…何でそんな事訊いてくるんだよ?」
 ジーニアスが何を思ってそんな質問をしてきたのか、よく分かってない様子で答えるロイドに、ジーニアスも距離を詰めてきて再び口を開いた。
「だって、わざわざ毎朝セットしてるでしょ?そんな面倒な事してまで上げてるなんて、何か理由でもあるの?素材はいい方だと思うのに、ロイドってそれで人生の半分は損してるってボクは思うなー」
 何故ただ髪を上げてるだけでそこまで言われなくはならないのかと思いながら、自分を背後から抱き締めたままの男もジーニアスの言葉に納得するように頷いているので、ロイドは呆れたように溜息を吐いた。
「癪だけど俺サマも同感ー。なぁ、何でわざわざ髪上げてんの、ロイドちゃん?」
 飄々として軽い様子で声を掛けてくるゼロスだが、がっしりとロイドの身体を抱きこんでいて、逃げるのは許さないと言外に語っている。
 しかし、ジーニアスに言われたようにロイドには髪を上げている理由があった。勿論それを口にしたくはないし、知られたくもないロイドは、困ったように眉を寄せて悪態を吐く。
「そ、そんなの訊いてどうするんだよ…大体お前達には関係ないだろ…っ?」
 何か余程の理由があるのかはぐらかそうとするロイドに、しかしジーニアスもゼロスもより興味を惹かれ、さらにしつこく喰らいついてきた。
「関係ないだなんてー、俺サマとお前の仲じゃねーかー…そんなつれない事言わないで教えてくれよ〜」
「ロイド酷いよ、関係ないなんて…ボク達友達じゃないか…」
 余計にベタベタと密着するゼロスは無視して、涙を浮かべて悲しげに言ったジーニアスを見てロイドは焦る。
「うわっ、泣くなよジーニアス…っ」
 纏わりついているゼロスは引き剥がそうとしても離れてくれないのでそのままにして、ロイドはフォローを試みようとした。するとジーニアスは、顔を上げて子供の自分よりも遙かに背丈のあるロイドを見上げてくる。
「…じゃあ教えてくれる?」
「う…それとこれとは話は別だ…っ」
 全然諦める様子のないジーニアスに、ロイドはそう言って顔を逸らす。そこまで頑なになるとは一体どんな理由があるというのだろう。こうなれば是が非でも聞き出してやるというように、ジーニアスは教えてと連発した。
「…強情だねぇ、ロイドちゃん。んじゃ仕方ねぇ…」
 どうやら諦めてくれたのか、ゼロスはそう言ってロイドから離れた。背後からなくなったゼロスの気配に、ロイドは安堵の溜息をつく。
 だが。それもつかの間の事で。
「コレットちゃーん、ロイドが毎朝髪を上げてる理由知ってる〜?」
 後方をしいな達と歩いていたコレットへゼロスがかけた言葉に、ロイドはガクリと肩を落とした。そしてすぐさま青ざめた顔で後方へ向かったゼロスを追いかける。
「え?ロイドが髪を上げてる理由…?うん、知ってるよ〜」
 ゼロスの質問にコレットはのほほんとした様子で返事をする。その返答にゼロスの顔が喜々とした表情になった。
「マジ〜?ラッキー、教えて教えて、コレットちゃん♪」
「わぁあ、駄目だコレットー言うな…っ」
 訊き出そうとするゼロスと必死な様子で駆けて来るロイドを見やりながら、しかしコレットは無情にもあっさり口を割った。
「えっと…あれは確か、子供の時村の子に髪を下ろしてると可愛いって言われたからだったと思うよー、ね、ロイド?」
「…何で言っちゃうんだよ、コレット〜…っ」
 コレットが口を割るのを止められず、脱力したようにヘタレ込みながらロイドは呟く。しかし、そんなロイドに再度纏わりついて、ゼロスはしてやったりな顔をしている。
「へぇ〜…そうなのか〜…Vv」
 ニヤニヤとだらしない顔をするゼロスに、内心で何でお前がそんなに嬉しそうなんだよ、と悪態つきながら、ロイドは先程よりも大きな溜息を零す。
「そうだったの、ロイド…?」
 ちゃっかりコレットの返答を聞いていたジーニアスも何だか嬉しそうな顔をしているように見えるのは、けしてロイドの気のせいではなさそうだ。
「ロイドちゃ〜ん…それってつまり可愛いって言われたくないからわざと髪を上げてるって事だろ?」
「…ああ、そうだよ!別に良いだろ、それくらい…っ」
 からかうように問いかけてくるゼロスに僅かに顔を赤くして顔を逸らせる。ゼロスにしてみればその態度こそ可愛いと思うのだが、本人は至って気付いていないようだ。
「でも、それだけで髪を上げてるってのもねぇ…何かまだ理由あるんじゃないのかい?」
 あんまりロイドが抵抗を見せるものだから逆に興味を惹かれてしまって、しいなまでもがそんな事を言う始末だ。
「…ないよ、そんなの…っ」
 ロイドは必死な様子でゼロスの腕の中から答えるが、それもむしろまだ何かを隠していてそれをばれないようにしているとしか見えない。
「…コレット、実際の所はどうなの?」
「…実際の所?」
 リフィルも気になるらしく、事情を知っていると思われるコレットに問いかけた。しかし、リフィルの言葉の意図を読み取れず言葉を反芻したコレットに、もう一度、今度は分かり易く尋ねる。
「…ロイドは一体髪を下ろしている時に何と言われたの?」
「え〜っとぉ…『ロイドって髪を下ろしてると女の子みたいで可愛いね』だったかなぁ…」
 のほほんと、コレットはその時の様子を思い出しながら答えた。その台詞に、ロイド・ジーニアス・ゼロスは三者三様の反応をする。
「あああぁ〜…だから何で言うんだよ、コレット〜…っ」
「えっ、そうなの!?」
「へぇ〜マジで〜Vv」
 へこむロイドと裏腹に、ジーニアスは素直に驚きゼロスはより一層嬉しそうな顔をした。
「そうなのか〜いい事聞いちゃったなー俺サマ♪」
「…いい加減ベタベタひっつくの止めろよ、お前…」
 全然離れようとしないゼロスに文句を言う言葉が、ふと合ってしまった視線に止まってしまう。何か悪戯を企んでいるような、不敵な笑みを湛えた視線で自分を見ているゼロスに、背筋を冷たいものが走る感覚に捕らわれる。
「ロイドちゃ〜ん…Vv」
「…な、何だよ…う、うわっ!」
 唐突に、ツンツンに立てた前髪をぐしゃぐしゃと掻き乱され、ロイドはびっくりして声を荒げた。あっという間に綺麗にセットされていたロイドの前髪がセット前の状態に戻されてしまう。
「な、何するんだよ〜いきなり…」
「でっひゃっひゃっひゃっ…俺サマナーイス♪」
 独特の笑い声で笑いながら、上機嫌にゼロスはそう言う。ロイドが文句を言ってるのも右から左へスルーしているようだ。
「うわぁ、ホント…全然いつものロイドじゃないみたい…」
「へぇ…髪形が少し変わるだけでこんなに変わるもんなんだねぇ…」
「ロイド…可愛いです…」
 ジーニアス・しいな・プレセアが髪を下ろされたロイドを見ながら感嘆の声を漏らす。それにつられてロイドを見やったリフィルとリーガルも納得という風に頷いている。コレットは相変わらずのほほんと様子を見守っているだけで。
「成る程…こりゃ確かに…可愛いぜ〜ロイドちゃん…Vv」
「か、可愛いって言うなー…っ!」
 だから嫌だったんだよ…と、ロイドはゼロスの腕の中に閉じ込められたままブツブツ文句を並べた。やはり、そういう態度が更に可愛さを引き出している事には気付いていないらしい。
 そんなロイドの様子に、ゼロスは更に機嫌を良くしてにやけているとしか言えない表情で顔を綻ばせた。勿論、そんな可愛いロイドを捕まえた腕は離さずに。
「くっそー、いい加減離せってば…!!このアホ神子…っ」
「あれ?俺サマにそんなこと言っちゃっていいの、ロイドちゃん…?」
「何が…っ、ひゃあ…っ!」
 ビクン、と身体が震えて言いかけた言葉が小さな悲鳴に変わる。悪態をついてばかりのロイドの首筋を、ゼロスが舐めたのだ。
 してやったりな顔でほくそ笑むゼロスを、ロイドはキッと睨みつける。だが、その顔は突然の行動に紅潮しており、説得力はなかった。
「ゼロス〜…っ」
 よっぽど恥ずかしかったのか、真っ赤になった顔の目元には僅かに光る雫まで浮かべている。適わないな、とゼロスは思った。これはロイドに興味を持ってしまった自分の負けだと。
 例え鈍いロイドが気付かなくとも隠せない想いを胸の奥に押し込めて、ゼロスはフッと笑う。そして。
「やっぱお前、可愛いわ…」
 腕の中に抱き込んだロイドの耳元に、そっと囁いた。
「だから…っ、可愛いって言うなぁ〜っ!」
 きっちり抱き込まれていて抜け出す事の出来ないゼロスの腕の中から、ロイドは再び声を上げてそう叫ぶのだった―――――。



やっちまいました…ゼロロイ&ジニロイ風味のTOSの小話です。
バイクで買い物に向かってる時にふと思いついて、忘れない内にと思って衝動で書いてしまいました。
非常に楽しかったです(笑)

シンフォニアで話を書いたのは初めてなんですが、ゼロスがやたら書きやすくて…(笑)勝手に動いてくれたのでありがたかったです…♪ちなみに時間軸は初めてオゼットを訪れた辺りくらいですね。だからクラトスとの関係も判明してません。

ここから少しネタばれアリ…なので隠してみた。

この話は皆が髪を下ろしたロイドがクラトスと似ている事には気付かないという事を前提に書きました。でも、分かる人には分かりますよね…(-_-;)ロイドってパパ似だと思うし…。髪を下ろしたら簡単に親子だとばれそうです。というか、私はクラトス似希望☆アンナさんもさぞかし美人だったんだろうけど…パパも美形ですから…Vv

なんにせよ、これが好評だったらまた書いてみたいなー…今度はちゃんとゼロロイかクラロイで(笑)
                                                       04,11,04 up



戻る