※ほんの少しだけCDのネタばれあります。




















たとえばそんな結末

「意義あり!」
「…ど、どうしたんだい望美…そんな力一杯に叫んで…?」

勢いも激しく突然言い放った望美にオレは少々たじろぎつつも、一体何に対して異議を申し立てているのか訊いてみる。こんな風に突然望美が何かを発言する時は大抵常人では想像もつかない事を考えていたりするんだけど…今日は一体何を考えたって言うんだろうか?

「納得いかないわ!何でヒノエ君の新曲の歌詞って、さも私が対象みたいな歌詞なのよ!?そんなの私的には全然萌えないんだけど!」
「はぁ…?望美…お前何を言って…」

訳が解らない。新曲、とか歌詞、って何の話をしているんだ…神子姫は。

「ほら、この間発売されたばかりの私達の出てるCD!あの中にあるヒノエ君の曲の歌詞は私…つまり神子に向けているような歌詞だけど、ヒノ九激萌え推進派の私がそんなの納得できると思う?」
「…ヒノ九?激萌え…って…」

早口とすごい剣幕で捲し立てた望美にオレは一瞬呆気に取られる。
けれど良く考えてみれば望美が言ってる事ってつまりはオレの事を応援してくれてるって事だよね…。
そう思ったオレはとりあえず望美が何を思っているのか黙って聞いてみる事にした。

「そもそも今ヒノエ君が恋焦がれているのは九郎さんでしょっ?だったらこれは九郎さんに向けて歌ってなきゃいけないのよ!」
「…おいおい、否定はしないけど何でそんな事お前が知ってるんだ…?」

本当に侮れないよ、神子姫は…まるで何でも見透かしているかのようにオレの心を見抜くなんてね。

「だいたい『羽衣が濡れたら帰れない天女』なんて、私に似合うと思う?自分で言うのもなんだけど…っ」
「…確かに…天女ってとても清らかな存在だって言われるけど、望美には…似合わないね」
「それに私自分の恋愛より八葉同士とか平泉組とか銀髪兄弟でくっついてくんずほぐれつしてくれる方が萌えるから!」
「…不純物の塊みたいに見えるよ、望美…あまり女を捨てるのはやめなよ…勿体無い、見目は良いのに」

目の前の望美を見ながらそう言うと、改めて言われたのが不服なのか望美は渋った顔をしている。その顔はお世辞にも清らかとも可愛いとも言えない。

「ちょーっとカチーンとくる言い方だけどまぁ良いわ。とにかく!誰がなんと言おうとあの歌でのヒノエ君の相手は九郎さんなのよ!」
「…そうだね…折角愛を歌うならやっぱり九郎に向けて歌いたいね…それにしても望美、この話題…CDを聴いた人にしか解らないんじゃない?」
「良いのよ、私の萌え主張なんだから!あ、勿論前作の『電光石火の恋』もヒノ九よ!」

ついでとばかりにもう一つ主張している望美には頭が上がる気がしない。
それに九郎との事を応援してくれるならオレとしてはありがたい限りだしね。

「…ヒノエに望美…?こんな所で何をしているんだ?」
「あ!九郎さん…丁度良い所に。九郎さんにも言いたい事があるの!」

ふいにオレ達の話している所へと姿を見せた九郎に足早に望美が駆け寄る。オレもすぐに九郎の側へと歩み寄って。
不思議そうな顔をしている九郎に、さっきのような剣幕で望美が口を開いた。

「九郎さん!何で景時さんとのデュエット、あんなにラブラブなんですかっ?」
「でゅえ…っと?らぶ、らぶ…?」

立て続けの横文字に九郎がきょとんとしている。きっと何を言われているか解ってないんだろうね…。
そんな九郎を余計に混乱させるように望美が九郎に詰め寄る。

「何なの、『お前の眩しさ』とか『綺麗な君だね』とか!挙句『心に抱くのは恋という宝石』?そんなラブソングな歌詞をあんな可愛い声で歌うなんて反則ですよ!」
「…望美…何を言ってるんだ…?話が見えないが…」

ああ、やっぱり九郎がすごく困った顔してる。しょうがないね…このままにしておくのは可哀想だ。

「望美、それくらいにしてやりなよ…純粋な九郎にはあまりそういう裏の顔は見せても意味ないと思わない?」
「何よ、九郎さんの白さに参っちゃって本気で強引な手段に出れないヒノエ君に言われたくないわよ!」
「…言うね、望美。でも、それ以上詰め寄ると本当に九郎が困り果ててしまうから、少し離れてもらうよ」

そう言ってオレは何とか九郎に詰め寄る望美から九郎を引き離した。オレの腕に収まった九郎が僅かに赤い顔でオレを見る。

「ヒ、ヒノエ…離せ、望美がいるだろうっ」
「…ふふっ、心配しなくても望美はオレ達の事を知っているから慌てなくて良いよ?」

望美の前でオレに抱き締められて恥ずかしかったのか離れようとする九郎を、もう一度しっかりと腕の中に抱き込んでそう言ってやる。瞬時に九郎の顔が真っ赤になった。本当に可愛い反応をしてくれるね、九郎は…。

「そういう事!で、九郎さん…ずばり九郎さんもヒノエ君の事が好きなんでしょ?だったら本当はヒノエ君とデュエットしたかった筈よね、そ う よ ね !!
「…っ、どどどどうしてお前がそんな事を…っ」

力強く力説する望美に九郎はカァーッと頬を染め上げて動揺してる。九郎には望美がオレとの関係を知っていた事だけでも驚くべき事なのに、更に自分の気持ちまで知られていたんじゃ無理もない筈だよね…。その点はオレも経験者だし九郎の動揺ぶりも解る。

「ほらほら、本心を白状しちゃって下さいよ…景時さんとあんなに仲良さげに歌ってたけど、本当はヒノエ君とラブバラードを熱〜く甘〜く歌いたかったんですよね!そう、例えて言うなら『愛が生まれた日』みたいな…っ」
「…望美、それは本当の年がばれるから言わない方が良いんじゃない?」

やっぱり困り果てて次の句を告げずに固まってしまった九郎を庇うようにオレが口を挟む。
望美は自分の主張に釘を刺されたのを面白くないとでも言うようにオレを睨みつけてくる。

「ヒノエ君だって九郎さんとのデュエットを他の人に渡したくなんてなかったでしょ?暢気な事言ってないでルビ●に主張しなきゃ!」
「…それも否定はしないけど…せめて九郎を困らせる事だけはやめて欲しいね…」

オレが間に入った事で少しは気が落ち着いたのか体のこわばりが解けてきた九郎を抱き締めたままで少しずつ望美から距離を取る。

「だからそろそろ勘弁してくれないかな?別にオレはお前の主張を否定しようって訳じゃないし…それとも、神子姫様は恋人達のささやかな時間を奪うような無粋な女なのかい?」
「くっ…切り返しが上手くなったわね、ヒノエ君…。そんな訳ないでしょ、二人の苺時間を邪魔するほど落ちぶれちゃいないわよ、むしろそんな美味シーン覗かせて貰いたいくらいだわ!」

おいおい、いくら何でもそれは堂々としすぎだろ。冗談じゃない、望美に九郎のあんな姿やこんな姿を見せたらどんな恐ろしい事になるか…分かったものじゃない。これは早々に退散した方が良さそうだね。

「…お前の熱い想いのたけは解ったよ、だけどここからは悪いけどオレと九郎だけの秘密の時間だ…間違っても覗いたりしないでね?流石に犯罪者になってしまったらオレでも神子姫を助ける事は出来ないからね…」

覗きは立派な犯罪行為だ、特に九郎を覗こうだなんて許されない。誰が許してもこの俺が許さないからね。九郎の全てを見ていいのは恋人のオレだけに与えられてる特権だからさ。
だから神子姫様でも、そんな行為を認める訳にはいかないんだ、ごめんね。

「さ、行こうか九郎?」
「え…行くって、どこに…?」

事態が飲み込めずに戸惑ってる九郎の手を少し強引に引いてオレは望美の前から去ろうとする。手を引かれるままについてくる九郎はオレと望美を交互に見やってこのまま去っていいものかとまた困った顔をしてる。

「…オレの屋敷」
「…ッ」

九郎の問いに答えたオレの言葉の意味を理解したのか九郎が息を詰めて顔を真っ赤にする。未だにこの手の話題になると初心な顔をする九郎は心底可愛い。さぁ、今日はどんな風に想いを囁いてあげようか…。

「…くぅー、また逃げられたわっ。最近かわし方を学んでしまったから手強いわ、ヒノエ君!いいわよ、観られなくってもラブってるのは確かなんだからこっちはこっちで好きなように妄想させて貰うから!」

背後から望美が不穏な発言をしているのが聴こえたけれど、オレは聴かなかった事にして九郎をつれたまま屋敷へと帰った。



その数年後―望美について現代まで来たオレ達は、ある日望美の部屋でとんでもないものを目にした。

「…なっ、何だこれは…っ///」
「…あの時の不穏な発言は、これの事だった訳か…まさか本当に妄想されてるなんてね…」

望美の部屋に山積みになっているダンボールの中にあった、はっきりと『ヒノエ×九郎』と明記された何種類もの同人誌…その中に描かれていたオレと九郎の情事の様子に、耳まで真っ赤にしている九郎と呆れてしまうオレ。
そんなオレ達二人を前にして、新たな原稿にかかっている望美と朔ちゃん。

「望美、ここはこのトーンでいいかしら?」
「うーん、そうね…いいと思うよv」

望美曰く朔ちゃんは才能があるらしい。こっちに来てからすっかり望美に感化されて今じゃ朔ちゃんも立派な腐女子の一人だ。せっかく美人なのに本当に勿体ない。
そして最も始末が悪いのは、望美達の作る本がいつもすごい売れ行きだという事。望美の奴、オレ達の世界の事をオリジナルの話にして同人活動しているものだから、歴史好きにもお耽美好きにも受けがいいようなんだよね。

「…九郎、今のは見なかった事にしなよ?望美にはもう何を言っても無駄みたいだからね…」
「…だ、だが…お、俺達の事が書かれているというのは…っ」

九郎の言いたい事は良く解る。だけどオレとしては九郎本人に何も変な事をしない今の状況は非常に助かっているから複雑な気持ちな訳で。
あれ以来、オレには何かと主張をしてきても九郎に詰め寄る事はなくなったんだ、あの望美が。
それはある意味すごい変化だといえた。

「…大丈夫、あれは全部望美の妄想のオレ達の事だから…本当の九郎を知ってるのは、オレだけだよ」
「…ヒノエ…」

オレの台詞にポーっと頬を染める九郎。何年経ってもこういう所だけは変わらなくて本当に可愛い。

「そこっ!修羅場中の人の部屋でラブってる暇があるなら手伝いなさいよ!」
「ヒノエ殿、九郎殿、手伝って頂けると助かるのだけど…」

オレと九郎が二人の世界に入りかけている所へ目ざとく二人の売れっ子同人作家の檄が飛んでくる。ここじゃおちおち九郎との甘い時を楽しむ事は出来そうにない。
二人に差し出されたペン入れ済みの原稿を、オレと九郎は『何で自分がモデルの話の原稿を手伝わされるんだ』と思いながら、溜息を落としつつ受け取った―――――。

はい、終わりました。
小話にするつもりがすごく長くなりましたので晴れてSSとして置く事決定(笑)

また望美が変なおなごになってます…うちの望美こんなんばっか…(´д`;)
ノーマルな望美が好きな皆様、失礼致しました(゜゜)(。 。 )ペこっ

ここで望美が言ってるCDとはまさしく月のしずくの事です。望美の主張もほぼ私が思った事そのまんまです(笑)
なのでネタばれ含む、という訳です。つっても歌詞だけなんですけどね(笑)

書いていてとても楽しかったです、望美の壊れっぷりとか。今時の若い子は愛が生まれた日なんて知ってるのかな…私の年がばれそうだわ(´д`;)

原稿もほっぽり出して突発的に書いた話でしたが、如何でしたでしょうか?
感想など頂けると嬉しいです。


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